2021/10/17

 私の作業場、いわゆる工房は山の中にある。

工房のすぐ三方を山に囲まれ、すぐ横に川が流れる、自然豊かな場所。

訪れた人はみな、いい場所ですね、と言ってくれる。


でも。

ここで生活するのは、はっきりいってしんどい。というか怖い。

川の音、虫の声、動物の鳴き声、虫の羽音、風が木を揺する音、雨音。

特に真っ暗な夜に聞くと怖い。

全ての命が、音になって四方から襲いかかってくる感じ。

慣れていない頃は、すぐ顔の横に川の水が押し寄せてきたか、と夜中に発狂しそうになってた。


人間界では、害虫と呼ばれる虫もたくさん来る。

特大の蛇、ネズミ、ムカデ、その他都会生活では見たことない生き物もいっぱい。


春頃から秋にかけて、そういった虫や小動物の生死を毎日目の当たりにしてると、

人間の生死も同じようなもんか、と考えてしまう。

ただ、生まれて死んでいく。それだけ。


自分もいつここで死んでもおかしくないような気がしてくるし、

死んじゃうなら、それはそれでいい。

それは、”人は自然に生かされてる”、というよりも、

”自然はいつでも俺を殺せる”、という感覚。

その感覚が私は、なぜか大好きで、じゃあ頑張って生きてみるか。

少なくとも殺されるまでは、マイペースで生きてみようか、と。

そして、自分は生き物として(人として、ではなく)どう生きて死んでいくのか、

と考えるようになる。



となりの大家さんの飼ってる犬(柴犬)が、その答えを知ってると思うんだな。

奴は知ってる。絶対に。

教えてくれないけど。



スプーン製作。

 


4年ほど前から、スプーンを作り始めて。

それから地味に地味に、折を見てコツコツと。スプーンを作る。


当初は右も左もわからないので、

とりあえず自分の気に入ってた既製品のスプーンをコピーするところから。

でも出来上がるのは、見た目にもブサイクで使い勝手もよくないモノばかり。

コピー元のスプーンにはるかに及ばない。


これではイカン。

モノマネはもういい。自分の欲しい形、サイズで作ろう。

コピーをやめて、ただ自分が欲しいスプーンを作り、

ときにはお客さんの要望に合わせて作る。


ようやく自分なりの形、満足いく作品ができるようになった。

数年かかったけど、これがマイスプーン。と思えるモノが作れるようになった。


で、ふと気づく。

自分で考えて、生み出したスプーンと思っていたモノが、

一番最初にコピーしてた既製品のスプーンに形がもうそっくり。瓜二つ。


自分で大笑いしたあとにちょっと感動した。

:自分で心からいいと思ったものは、無意識下に定着する。

そしてそれは本人の知らぬ間に、タイミングをみて自ら表出してくる

:自分の考える”良いモノ”を既に誰かが作り、製品化し、世に広めている

という事実に出会えたから。



不器用にでも、見返りがすぐに返ってこなくても

とりあえず続けていればこそ。

わかることがある。て言われたな。


この仕事、本当におもしろい。

続けていれば、もっと面白いことがたくさんあるんだろうなあ。

楽しみだ。