2021/11/08

なつかしい匂い


先日の衆議院選挙、の投票会場にて。

会場は、小学校。

なんか懐かしい匂いがする。

と私がクンクン嗅いでる少し前方を、小さな男の子とそのお母さんらしき二人組が歩いている。

男の子は、自分の通う学校にお母さんと一緒にいることが嬉しいのか、あれこれと学校の説明をしている。

投票場所である体育館の前まで来て、お母さんが言う

『よおし。お母さんは、投票するぞ。』



親子と一緒に、私も体育館の中に入る。

男の子と目が合う。普段ならにやっと笑ったり、サービスするけど私の頭の中は投票と懐かしい匂いの出元でいっぱい。

すまん、少年。今は余裕がない。



投票を済ませて、工房で作業を始めてからふと思い出した。

そういえば、自分もあの男の子と同じ年の頃、なんかの選挙で自分の通う小学校まで母親と一緒にきたなあ。

でも、自分は選管のおじさんに止められて入り口でウロウロしたり飼育小屋のウサギ見に行ったりしてた。

今頃気づいたけど、あれはきっと母親の社会教育だったんだ。



あのお母さんも、自分の子供に選挙の仕組みやこの国のリアルな民主主義とかを見せたかったんだ。

で、お腹に力をいれて投票に臨んでたんだな。

その力がたぶん私のところまで届いたんだ。だから、会場を離れたあとも私の耳にお母さんの声が残ってたんだ。


果たしてこの国の民主主義が、本来の民主主義として機能しているのかは疑わしいが。

いろんな想いがこもって、自分も腹から声が出てしまうだろうな、もし自分があのお母さんなら。

でもその力が子供に届くのは、おそらく10年後、20年後かもしれない。届かないかもしれない。





考えて、行動して、その自分のコアにある想いが誰かに(もしくは社会に)響くのはずっと先。届くことすら叶わないかもしれない。

今の自分の仕事に似てる。


自分がなぜ今の仕事を選んだのか。

自分は何を目指して進んでいくべきなのか、を思い出させてくれた。



あと、懐かしい匂いの出元はキンモクセイ。だったと思う。



2021/10/17

 私の作業場、いわゆる工房は山の中にある。

工房のすぐ三方を山に囲まれ、すぐ横に川が流れる、自然豊かな場所。

訪れた人はみな、いい場所ですね、と言ってくれる。


でも。

ここで生活するのは、はっきりいってしんどい。というか怖い。

川の音、虫の声、動物の鳴き声、虫の羽音、風が木を揺する音、雨音。

特に真っ暗な夜に聞くと怖い。

全ての命が、音になって四方から襲いかかってくる感じ。

慣れていない頃は、すぐ顔の横に川の水が押し寄せてきたか、と夜中に発狂しそうになってた。


人間界では、害虫と呼ばれる虫もたくさん来る。

特大の蛇、ネズミ、ムカデ、その他都会生活では見たことない生き物もいっぱい。


春頃から秋にかけて、そういった虫や小動物の生死を毎日目の当たりにしてると、

人間の生死も同じようなもんか、と考えてしまう。

ただ、生まれて死んでいく。それだけ。


自分もいつここで死んでもおかしくないような気がしてくるし、

死んじゃうなら、それはそれでいい。

それは、”人は自然に生かされてる”、というよりも、

”自然はいつでも俺を殺せる”、という感覚。

その感覚が私は、なぜか大好きで、じゃあ頑張って生きてみるか。

少なくとも殺されるまでは、マイペースで生きてみようか、と。

そして、自分は生き物として(人として、ではなく)どう生きて死んでいくのか、

と考えるようになる。



となりの大家さんの飼ってる犬(柴犬)が、その答えを知ってると思うんだな。

奴は知ってる。絶対に。

教えてくれないけど。



スプーン製作。

 


4年ほど前から、スプーンを作り始めて。

それから地味に地味に、折を見てコツコツと。スプーンを作る。


当初は右も左もわからないので、

とりあえず自分の気に入ってた既製品のスプーンをコピーするところから。

でも出来上がるのは、見た目にもブサイクで使い勝手もよくないモノばかり。

コピー元のスプーンにはるかに及ばない。


これではイカン。

モノマネはもういい。自分の欲しい形、サイズで作ろう。

コピーをやめて、ただ自分が欲しいスプーンを作り、

ときにはお客さんの要望に合わせて作る。


ようやく自分なりの形、満足いく作品ができるようになった。

数年かかったけど、これがマイスプーン。と思えるモノが作れるようになった。


で、ふと気づく。

自分で考えて、生み出したスプーンと思っていたモノが、

一番最初にコピーしてた既製品のスプーンに形がもうそっくり。瓜二つ。


自分で大笑いしたあとにちょっと感動した。

:自分で心からいいと思ったものは、無意識下に定着する。

そしてそれは本人の知らぬ間に、タイミングをみて自ら表出してくる

:自分の考える”良いモノ”を既に誰かが作り、製品化し、世に広めている

という事実に出会えたから。



不器用にでも、見返りがすぐに返ってこなくても

とりあえず続けていればこそ。

わかることがある。て言われたな。


この仕事、本当におもしろい。

続けていれば、もっと面白いことがたくさんあるんだろうなあ。

楽しみだ。